12. 家族という集団
https://gyazo.com/6f5c3fc2e92c28c3875eec823e35468e
1. 家族心理学とは何か
1-1. 家族という集団の特殊性
心理学諸分野のなかでも最も新しい分野の1つで、学問としてのまとまりを見せたのは、1980年代に入ってから
公認心理師カリキュラムに「社会・集団・家族心理学」という科目が設定される以前は、家族心理学が社会心理学との関連で語られることは極めて限定的だった 社会心理学のなかで「集団」を取り上げる場合、その成員同士に特別な関係性を仮定していないことがほとんどだから
そこで設定された集団は恣意的な基準で構成されたものであり、集団成員間に何の相互作用も仮定されていなかった
それとは対照的に、家族には、集団成員間に複雑な関係性が存在し、またその関係性を前提として、家族は様々な機能を担っている つまり家族は、社会心理学においては特殊な集団だといえるが、日常生活に目を転じると、ほとんどの人にとって生まれて最初に出会う、最も身近な集団は家族だろう
「結婚は1つの集団的状況であり、それゆえに集団生活の一般的特徴を示す」
「結婚における配偶者の問題はしたがって個人とその集団との関係から生じてくるものと見なければならない」
1-2. 家族心理学が取り組む課題
家族心理学「心理学的方法論に準拠し、家族にかかわる心理学的諸現象を研究する科学」岡堂, 1991 主要課題
家族にまつわる問題の解決を目指す
家族の問題行動や心理面の症状、夫と妻の葛藤、老親との不和など、問題を抱える家族に対する援助法についての理論と実践に関する研究
家族の健全な発達の促進を促すもの
これまで発達心理学や臨床心理学の分野で取り扱われてきた問題を個人ではなく、家族全体の機能と構造を視野に入れて、心理的な援助をしていく必要性が強調されている
2. 家族の機能と構造
2-1. 家族の機能
衣食住を確保し生命・生活を維持していく機能
個人および家族が直面する危機に対処し、それを克服していく機能
対内的な機能
集団成員の必要性から生まれた機能
衣食住や性といった基本的な欲求の充足
家族は子どもを養育する場であることから、子の養育機能も含まれている
対外的な機能
社会が求める機能、結果として社会の目的に適う機能
家族が基本的欲求を充足させることで、食や性をめぐる不要な諍いを防ぎ、社会秩序に資するほか、社会が求める良質な労働力を提供する役割も家族は果たしている
家族の機能は、他にも様々なかたちで分類されているが、いずれも家族が単に生理的欲求の充足の場ではなく、心理・社会的な機能を果たす場として捉えている点では共通している 家族は集団成員の心理的安定のために適切に情動を表出させ、安定させるという情緒的サポートの機能を持つ 2-2. 家族の構造
集団の機能は、その構造と密接に関係している
家族心理学では家族を1つのシステムと捉える
家族は社会や他の家族とは分離された存在
家族の中にもその成員から構成されるサブシステムがある
こうしたシステム/サブシステムを仕切るのが境界
両親と子どもとの間には世代による境界がある
父・息子と母・娘の間には性別という境界がある
境界は明瞭性を持ちつつも、状況に応じて柔軟に変化できることが求められる
それができない場合、たとえば境界が不明瞭な場合には、自他の区別がつかない未分化状態となる
反対に境界が明瞭でありすぎると、ほかがその境界を越えて入り込むことができない
たとえば、育児をすべて妻に任せ、夫が家庭を顧みない家族では、母子関係が未分化で互いに自立できない状態であると同時に、母子と夫との間には強固な境界が築かれ、夫が家族の中で遊離した状態に置かれるといったことが起こる
成員間の協力関係のこと
第三者に対抗するために二者が協力する連合と、特に第三者を想定せず共通の目的のために二者が協力する同盟があるが、両者を区別せず、すべてを連合と呼ぶことも多い 家族成員の一部が連合し、それが固定化した状態
例
母子間、父子間に強力な連合が築かれる一方で、夫婦間の連合がなく、コミュニケーションが行われない
家庭内で暴力をふるう父親に対し、母子が連合して父親に対抗する
固着した連合を形成している二者間(たとえば夫婦)に生じた葛藤を解消するために、第三者(たとえば子ども)が利用されるもので、第三者を攻撃したり、反対に、第三者の問題解決のために協力をし合ったりすることで、二者間の連合が強化される
対立する二者が第三者を自分の味方につけようとするもの
例えば、関係が悪化した夫婦が、子どもを味方に組み入れようとして、配偶者の悪口を子どもに言うようなケース
家族システム内にも勢力はあり、家族が正常に機能するためには、特定の成員に勢力はあり、家族が正常に機能するためは、特定の成員に勢力が偏ることなく、均衡化されている状態が望ましい
また勢力は成員間に境界や提携があってはじめて成り立つもの
たとえば遊離状態にある父親が子供に対して持つ勢力は必然的に弱いものにならざるを得ない
2-3. 家族円環モデル
オルソンらによって提唱された、家族機能の最適さが凝集性と適応性という2つの次元によって規定されるというモデル https://gyazo.com/f8e3c2f9fc3eb443368244bbb17e9a29
結びつきが低く、家族がばらばらな遊離の状態から、結びつきが強すぎて、動きがとれない膠着状態までの4段階が想定されている
前項で示した家族構造の特徴が集約された概念だと考えられる
家族が状況的・発達的危機に直面したとき、構造や役割、ルールなどを柔軟に変化させることができる程度を指している
状況的危機: 病気や事故、災害など、日々の生活の中で偶発的に生じる危機 発達的危機: 家族の発達に応じて必然的に生じる危機 危機への柔軟性がありすぎる無秩序の状態から、柔軟性がまったくない硬直状態まで、こちらも4段階が想定されている
各々の家族は、この2次元からなる座標軸上のどこかに位置づけられる
凝集性、適応性ともに中程度の状態=座標軸の真ん中あたりに位置する家族が家族機能が最適状態にあるといえる
3. システムとしての家族
3-1. 家族システム論
家族心理学の大きな特徴は、成員一人一人ではなく、家族全体の構造と機能を1つの視野に入れることにある
この理論を援用している家族心理学では、家族を1つの生活システムとして扱っている
榎本, 2009はこのような家族システム論に特有の視点を、次の3つにまとめている 二者関係に還元しない
たとえば、子どもが何らかの問題行動を起こした場合、母子関係等の単一の二者関係のみに注目するのではなく、夫婦関係やきょうだい関係等、家族システムを構成するあらゆるサブシステムを検討していく
双方向の因果の流れを想定
多くの場合、サビシステムの関係性は単方向ではなく、双方向であり、双方向の関係性が循環しているのが普通
たとえば、子どもの問題は親の養育態度によるものと考えられがちだが、子どもの気質にも依存することはよく知られている(→13. 家族内の関係性) 目的論的な受け止め方
問題を因果的に受け止めるだけでなく、必要に応じて、目的論的に受け止める
問題の原因が何なのかを突き止めることよりも、家族システムの機能不全を解消し、より健全なシステムへと再構築するためのきっかけとして、その問題の意味を積極的に捉えるということ
3-2. 家族の発達
家族を1つのシステムと考える家族システム論では、家族を発達する存在としてとらえる視点も欠かすことができない
個人と同じように家族にも発達段階があり、各段階に応じて発達課題を達成することが求められるとしている
https://gyazo.com/e69b68ddc50a825a27ec9e762e898227
3-3. 生態学的システム理論
家族を1つの独立したシステムとみなすとしても、その構造や機能は、家族を取り巻く社会と無縁ではない
家族を取り巻く社会全体もまた大きな1つのシステム
ブロンフェンブレンナーは生態学的システムを複数の層に分け、子どもの発達には、親、友人、兄弟姉妹など子どもが直接関わる環境(マイクロシステム)だけでなく、子どもに間接的に影響を与える周辺環境も考慮すべきだとしている 母子関係・父子関係といった親子関係を1つとっても、そうした関係は、親同士の関係性によって左右される(メゾシステム) 夫婦関係は、夫と妻のそれぞれの職場や友人関係、居住環境などに影響される(エクソシステム) それらはさらに、その地域あるいは国の文化や観衆、価値観などに影響されている(マクロシステム) 3-4. 文化の影響
マクロシステムである文化が家族に及ぼす影響は様々な場面で見て取ることができる 例えば、個人と社会のいずれを重視するかという価値観において、一般には西洋には個人主義、東洋には集団主義という文化差が存在するとされている このような文化差を反映するかのように、ヨーロッパ系アメリカ人の子供は、自らが選んだ課題を行う場合と、他者が選んだ課題を行う場合では、前者のほうが意欲的で課題の成績も良かった
一方、アジア系アメリカ人では、母親が課題を選択した場合が最も成績が良く、母親の期待が子どもの動機づけを促している様子が示された アメリカの子どもが母親の影響をあまり受けていないのに対し、日本の子どもは母親の態度や行動によって知能や学力が大きく左右されていることが報告されている
これらはいずれも欧米とアジアでの母子関係のあり方の違いを示すもの
実際欧米では、母と子も相互に独立した人間であるという考えから、幼いうちから寝室を別にし、どのようなことがあっても、子ども自らが判断・選択することを推奨する
アジアでは母子関係がより未分化な状態なまま成長することが多く、子どもが大きくなってからも多様な側面で親が子どものサポートをする傾向が見られる(→14. 心の文化差) 親子関係やしつけ、教育の仕方だけでなく、家族成員の役割や情緒的絆など、様々な側面で各国の文化に応じた特徴が見られている
ただし文化は、家族の周りにあまりにもあたりまえに存在しているため、普段の生活の中でその影響が意識されることは少ない
文化の影響が浮き彫りになるのは、文化間の移動により異文化に接触したときだろう
箕浦, 1990は海外駐在員の子どもたちへ追跡調査を行い、子どもの文化的受容やアイデンティティ構築に関する研究を行っている このような子どもたちは、家庭の内外で異なる文化に接触するため、それをうまく調整しながら適応することが求められる
箕浦によると、文化的受容には感受期(9~14, 15歳)があり、異文化接触がこの前に行われたか、それ以降に行われたかで異文化の受容にはかなり程度の違いが見られるという
しかし異文化を受容し適応したとしても、親の会が勤務が終わると、帰国によって子どもたちは再度文化間移動を経験することとなる
異なる文化にはその集団に特有の暗黙の規範があるため、繰り返しの文化間移動は子どもたちに深刻な心の葛藤を経験させるが、多くの子どもは、そのような経験のなかで自らのアイデンティティを再構築し、状況に応じたふるまいを身につけるようになっていく
3-5. 時代的な変化
時間的要因には、発達段階のような一人の人間における時間的変化(発達的変化)と時代的変化が含まれる
ブロンフェンブレンナーの指摘どおり、家族は時間的に変化するだけでなく、時代によっても大きく変化するもの
日本社会において近年顕著な変化は、少子化、晩婚化・未婚化、離婚の増加
https://gyazo.com/25a8d7e3e2a1cec8d795bc20dbebc073
2度のベビーブームを除き、継続的に減少傾向にある
一人の女性が生涯に生む子どもの数の理論値
第1次ベビーブーム期には4を超えていた
昭和20年代後半になると急激に低下し、昭和50年以降は2を下回るようになった
平成元年は合計特殊出生率が1.57で、ひのえうまであった昭和41年の1.58を下回った
最新の統計(H28)では1.44と依然人口置き換え水準(人口が将来にわたって増減せず、親の世代と同数で置き換わる大きさを示す)を下回っている 昭和50年代以降は20代での出生率が低下し、30代、40代が上昇傾向にある
H28の第一子出産時の母親の平均年齢は30.7歳で、昭和50年と比べると5.0歳上昇
これは平均初婚年齢の上昇と大きく関係し、平成28年では夫31.1歳、妻29.4歳となっている
養和22年と比べると夫が5.0歳、妻が6.5歳上昇
また結婚はしたものの、友場tラキで子どもを持たない選択をする夫婦(DINKS)も多い 人口千人あたりの婚姻件数
低下傾向となり、平成28年の婚姻率(5.0)は、昭和40年代と比べると約半分の水準
人口千人辺りの離婚件数
平成3年以降に急激に上昇
近年は緩やかな低下傾向にあり、諸外国に比べると依然として低い水準にある(H28で1.73)